国の重要文化財に指定されている、石州瓦の屋根と漆喰壁が美しい豪商の屋敷。
熊谷家住宅は、島根県大田市大森町にある、江戸時代後期から明治にかけて建築された豪商の屋敷です。古記録によれば、熊谷家はもと毛利家の家臣であったと伝えられ、17世紀には銀山の経営にかかわっていたそうです。その後、代官所の公金出納を行う掛屋や御用達を兼ね、19世紀には年寄職(町役人)を務めた家柄です。江戸時代末期からは酒造業も営んでいました。現存する屋敷構えは、寛政12年(1800年)の大森町の大火で焼失した後、再建に取りかかり、明治初期にかけて順次整備されたものです。 大森町の町並みの北端近く、銀山へ通じる道の東側に位置し、敷地の背後には銀山川が流れています。敷地の西端、道路に面して主屋が建ち、その北側には道路に接して北道具蔵、さらにその東に小蔵、衣裳蔵が建ち並びます。さらに敷地の東側に東道具蔵、南側に米蔵・雑蔵が建ち、当時の豪商の暮らしぶりを感じることができます。 主屋は石州瓦の桟瓦葺きに漆喰壁の建物で、北面入母屋造、南面切妻造、四方庇付き、一部二階建とする。平面規模は桁行18.8メートル、梁間14.5メートル。主体部は南側が通り土間、北側は居室を2列に並べ、庭に面して1間幅の畳廊下をめぐらす。主体部の正面(西面)南側には物置が突出、北面東端には廊下を介して風呂場・便所が附属する。背面(東面)は南端と北端に突出部があり、前者には座敷・台所・風呂場、後者には衣装蔵に接続する蔵前座敷を設ける。 熊谷家住宅は大森町では最大の民家であり、伝来する家相図等から屋敷構えの整備の過程がわかる点で貴重です。1998年(平成10年)に国の重要文化財に指定され、世界遺産の「石見銀山遺跡とその文化的景観」の構成資産の一つにもなっています。